いつものように、彼が佐藤さん(仮名)の歩行訓練を行っていた時のこと。
とても言いにくそうに、佐藤さんが言ったそうだ。
「先生、私こんなこと言っちゃいけないんだけど…。」
「なんですか? 何でもおっしゃってください」
彼がそう促してもなお申し訳なさそうに「この靴 ダサいのよ…」
その時佐藤さんが履いていたのは、歩行をラクにするリハビリシューズ。
確かに機能性は高いが、色も形も地味で決しておしゃれとは言えない。
彼は背筋に電気が走るようなショックを受けたそうだ。
いつの間に自分はそういう当たり前の感覚を無くしてしまっていたのだろう。
けれど、彼はそれで終わらなかった。
「わかりました、佐藤さん。ご自宅に置いてある靴を全部持ってきましょう。
それを履いて歩きましょう。」
次のリハビリの日、佐藤さんのご自宅からお気に入りの靴が持ち込まれた。
どれも、本当に素敵な靴ばかりだった。きっと、お好きなんだろう。
手入れも行き届きすぐにでも足を通せる状態だった。
(確かに、これが履けないなんて残念過ぎる…)
彼は、一足ずつ、すべての靴を佐藤さんの足と歩行にあわせて調整していった。すべての靴を、佐藤さんはちゃんと履くことができた。
ヒールのある靴も含めてすべてだ。それを履いて歩く佐藤さんの表情は晴れやかで、一切の曇りは消えていた。